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大樹町の冬1年目の奮闘記〜除雪編〜【岡山ひろみ】

1月7日、この日は眠気よりも使命感と謎の高揚で、私はいつもより30分早く目が覚めた。まだ太陽の気配なくひんやりとしている中、長靴と手袋を履き(北海道では手袋のことを「はめる」「する」ではなく「はく」という)大きなスコップを片手に外へ出た。そう、除雪である。

この冬、十勝は異常気象ともいわれるほど初雪が遅く、未だに積雪も少ないようだ。近所のスキー場は雪が足りないせいで未だにオープンできていない。札幌で生まれ育った私も驚くほど雪がなく、大樹に限っていえば、今シーズン初めて積もるほど雪が降ったのは12月29日のこと。雪やアイスバーンが無い冬は思いのほか快適で、たしかに1月2日には−28.1度という驚異的な寒さを叩き出してはいるものの、こんなに過ごしやすい冬があって良いのだろうか…と思うほどだった。

「十勝晴れ」という言葉をご存知だろうか?北海道に馴染みのない人にとっては、”北海道=雪”というイメージもあるかもしれない。でも実は、たくさん雪が降るのは、主に大雪山系や日高山脈から西側の日本海側だけなのだ。日本海側である札幌に生まれ育った私は、冬には小学校の体育の授業でスキー学習をするくらいには雪が降る。少し湿っていて重い雪なのでかまくらや雪だるまを作って遊んだし、巨大な雪像を作ることで有名なさっぽろ雪まつりは日本海側だから開催できているのではないだろうか。
逆に、日高山脈よりも東にある十勝地方は本当に雪が降らない。大陸から来た乾いた冷たい風は日本海で水分を含み、日本海側でたくさんの雪を降らせる。でもその雪雲は、「北海道の背骨」と言われる大雪山系や日高山脈に遮られ、十勝には冷たく乾いた空っ風をもたらすのだ。

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十勝では、学校のグラウンドを凍らせてスケートリンクを作り、スケートの授業をすると聞いたことがある。積雪量が多く、そんなに寒くない札幌ではできないことだ。それくらい十勝は雪が降らない。

「降らない」とはいえ積雪はゼロではなく、「そんなに降らない」だけで、ついに1月6日、大樹にも大雪がやってきた。引っ越す前にじんちゃん(元・大樹町地域おこし協力隊で、ゲストハウスHOUSE MOEWAオーナー)から「年に何回かはドカ雪が降るよ〜」と言われていたけれど、こんなに吹雪くとは聞いてないよじんちゃん…!早朝から降り始めた雪は次第に横殴りになり、車の運転スキルの低い私は外出を諦めた。家から外を眺めていると、向かいの畑にある防風林の影が薄っすらとしか見えないほど吹雪いている。十勝では、雪は真っ直ぐに降らないのか…?と思うほど、びゅうびゅうと音を立てていた。
野ざらしになっている車が可愛そうで、昼に一度、雪かきのために外へ出てみた。冷たい風と雪が頬に当たりヒリヒリする。黒い服があっという間に真っ白くなってしまった。それでも、「雪国育ち」というプライドが私にはあるのだ。ここは夫に任せていられない、札幌の重い雪と育ってきた私の実力を見よ!!!!と勢い良くスコップを雪に突き刺した。
「おかしい…雪が重い。十勝の雪は水分を含まないから軽くてサラサラのはずでは…!?こんな重さ、札幌と変わらないよ〜!!」
そこそこ強い風と、そこそこどっしりした雪と、広い庭に、ポキっと折れてしまった私の心。明日晴れてから雪かきをしようと、さっさと家の中に退散した。温かいお茶を飲みながら眺める暴風雪も、なかなか乙である。

そうしてよく晴れた翌日、まだ太陽が昇る前から家の前の除雪を始めた。実家では父が先陣を切って除雪をしていたため、ちゃんと除雪をするのはほぼ初めてだった。雪をすくって、左へ投げる。雪をすくって、左へ投げる。同じリズムで繰り返していくと、あっという間に体が温まってきた。「父は雪が降り始めたらこまめに除雪をするけど、あれは良い戦法だ」とか、「家を建てるときは除雪のことをもっと考えた庭にすべきかもしれない」とか、「どうして除雪をすると鼻水が出てくるんだろうか」とか、どうでもいいことをぐるぐる考えながら、雪をすくって左へ投げる。気がつけば、お隣さんも、そのまたお隣さんも、雪をすくって投げている。声を掛け合うわけではないけれど、お隣さんもやっているので頑張れる。無言の一体感を感じる朝の除雪は、なんだか不思議と気持ちがよかった。

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北海道の冬は、効率が悪い。積もった雪を避けて生活をしなければならないし、寒いので灯油や薪を使って暖房をつけなければならないし、大雪の日は家に籠もるので食糧はある程度ストックしておかなければならないし、ストーブを焚いていても水道が凍るかもしれないし。お金も手間もかかるけれど、まぁ悪くないんだな、これが。

大樹町の冬1年目の奮闘記、次回のテーマは「−20度は寒いのか?」の予定です!お楽しみに〜!

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