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「あれがない」から「これもできる」へ〜思わず大樹高校に赴任したあの頃〜【ゲストライター高野圭】

こんにちは!
いつも「宇宙のまち大樹町note」をお読みいただきありがとうございます。今回は、記念すべき(!?)3人目のゲストライターが登場!

執筆してくださったのは、高野圭(たかの けい)先生です。今年の3月まで町内の北海道立大樹高校に理科教諭として勤務されていました。石狩市の大規模校から、全校生徒が100人をやっと超える郡部の高校に異動した高野先生。大樹町ではどんな教師生活を送っていたのでしょうか?

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高野 圭(たかの けい)
千葉県出身。大学を卒業後、東京の民間企業で5年間営業職として勤務。その後、通信教育課程がある大学で理科の教員免許を取得し、教員採用試験を受験。不合格が続くも、縁もゆかりもない北海道から合格通知をもらい2014年から石狩市にある高校の理科教師として勤務。2018年4月に人事異動で大樹高校に赴任。3年勤務した後、現在は、東京の学校で勤務中。
https://note.com/tanokyou_key/

次は「タイキ」でどうだ?

北海道の公立高校教師として働いて4年目(2017年)、石狩市の大規模校に勤めていたあの頃、次の転勤先として当時の校長先生からそんな打診を受けたのでした。

ところで、ボク自身は生まれと育ちは千葉県。民間企業に勤務していた頃はずっと東京で過ごしてきました。都会にある人の多さ・多種多様なお店、多くのイベント、といった光景になじんでいたボクは、人事異動は仕方ないとはいえ、郡部の学校にはできるだけ行きたくないと思っていました(← 北海道なめるな 笑)。ボクがのんびり過ごしたり、気分を変えて仕事をするためによく使用するカフェだってあるかどうかわかりません。そんな想いを強く持っていたため、「タイキ」と言われて、ボクはこう答えたのでした。
 
「タイキ(=待機)」…ということは、石狩市残留ですね!ありがとうございます!!ぜひそれで!」(← ヒドイ勘違い…爆)

あの頃は、大樹町という町が存在することすら知らず…。大樹=待機と誤変換してしまったのでした(笑)。そんな勘違いをスタートに、大樹町にある高校(当時の生徒数156名)の教員として、多くの不安(カフェがあるのか?など)をかかえながら働き始めたのでした。

はじめて大樹町を訪れたあの頃

赴任当時は車も持っていなかったので、初日は帯広駅周辺のホテルに前泊し、早朝、バスで100分かけて移動しました。同じ北海道とはいえ、町に近づくにつれて景色がどんどん「北海道感満載」になってきます。

放牧風景

牧草ロールの風景

▲放牧された牛と牧草ロール。
同じ北海道でも、札幌や石狩ではなかなか見られない光景です。

「郡部はお店まで1時間かかるぞ…」「ましてやおしゃれな場所なんて皆無」などと、前任校の職場の同僚に散々オドされていましたが、赴任して町にある借家に引っ越してみると、新築だし、職場まで歩いて10分だし、コンビニも外食する場所もあるし…と、想像とは異なる風景がありました。肝心のカフェに関しては、夜遅くまでやっているお店はなかった一方で、有志の方で運営する「コワーキングスペース」を月額で借りることができました。

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▲町内にあったコワーキングスペース「レキフネーション」

その当時、初任校での4年間の教師生活について、自分自身の本を出版社から刊行することが決まっていたため、その原稿に追われていたボクは「24時間使えるし、Wi-Fiも電源もおしゃれ空間もあるし、サイコーだ!!!」と感動し、週末はこのスペースにこもって原稿を書き上げたのでした。残念ながら、このスペースは2019年に閉業してしまったのですが、「十勝ワーケーションガイドBOOK」なる資料を参考にすると、管内にはこれだけのコワーキングスペースがあるようです(2021年10月現在)。

▲『たのしく教師デビュー』(仮説社)
明星大学通信教育学部で小原茂巳教授から仮説実験授業を学び、〈子どもたちに喜ばれる授業をすること〉に目覚めたボク。その教師デビューから数年間にわたる歩みを記録した一冊です(Amazonで購入できます!)

あなたとつながる

大樹高校に赴任してきて、担当したのは、週15時間の理科の授業と加えて、外部連携の取り組みでした。

まず担当したのは、大学との連携。町にあるLIXIL住生活財団が運営する実験住宅(メム メドウズ)などで計測したデータなども踏まえながら、京都大学・神戸大学の先生・学生を高校に呼び、大学生と高校生がチームを組んで、実験住宅や校舎内の調査を実施し、班ごとにプレゼンするというプログラム。1日まるごと使って大学生たちと一緒に学ぶ姿を見て、「郡部の学校にも関わらず、こんな取り組みがなされているのか!!」とカルチャーショックを受けたのを覚えています。

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▲メムアースホテルでは「国際大学建築」コンペで最優秀賞を受賞した実験住宅に実際に宿泊することができます。

でも、考えてみたら都市部の高校よりも生徒数もクラスも少ない状況だからこそ、柔軟にカリキュラムやプログラムが組めるのだと気づきます。日常とは異なる授業内容や町では出会わない大学生・教授たちと話す中で、生徒たちも意欲的に取り組む姿がそこにありました。

外部と連携して学びを考える機会なんて、それまではまったくなく、「とにかく教科書を終えるんだ」「自分自身でやるんだ」という視点だった当時の自分。この出来事は、良い意味で「授業者ひとりで実施する限界」を感じられるものでした。都会にいた頃の自分では気づけなかった視点です。(たとえるなら、ゲーム「ドラゴンクエスト」で、主人公ひとりじゃなくて、仲間を引き連れて戦う!みたいなカンジかな(笑))

この大学との連携を担当したのをきっかけに、理科や探究の授業でも、「南極観測隊に参加した方を呼んで、南極の氷に触れながら地球を学ぶ」「高校生時代に十勝で起業した現役女子大生を呼んで、生き方・考え方を学ぶ」「(町内でロケットの開発・製造をしている)インターステラテクノロジズ社(IST)などと協力して、スペースポートがある大樹町の未来をワクワク考える」「札幌に住む大学生をインターンで呼んで、郡部の高校生たちと関わってもらう」など、外部と連携して数多くの企画を提案・実施することとなりました。

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▲南極観測隊の方をお呼びして、普通の氷と南極の氷を比較!

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▲高校生起業家(現在は大学生)の山本さんをお呼びして若者にエール!

また、社会科目を担当する別の教員では、現代社会で話題になっているテーマに造詣が深いゲストをZoom(オンライン)でつなぎ、講話や対話の時間を設ける…なんてことをしていました。大樹高校では、「子どもたちにとって魅力的になりうる実践はどんどんやっていい」という風潮があります(ボク自身の見解ですが 笑)。ここでは書ききれないほど、たくさんのやりたいことをすることができました。

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▲ISTの中神美佳さん。
大樹高校では、地域人材が積極的に生徒の学びに寄与しています。

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▲スペースポートのある大樹町の未来予想図。
高校生のアイデアをもとに札幌の絵師 林匡宏さんがその場でイラストを起こしていきました。

また、今の大樹高校には地域コーディネーターの神宮司亜沙美さん、地域おこし協力隊の長谷川彩さんが毎週来てくれ、地域と学校を繋いでくれています。現場の先生のだいたいは、地域・外部とつながる余裕も人脈もありません。そんな状況だからこそ、二人は高校にとって、とてつもなくアリガタイ存在です。

大樹町に貢献したい

大樹高校に赴任して、次に担当した仕事は「地域連携講座」。「高校がまち(町民)とつながる」ということでした。初年度の夏に依頼されたのは、「星空観察会の講師」として、 町から少し離れた多目的航空公園にある滑走路に寝転がり、夜空に輝く星座や惑星を探す…というもの。「夜は入れない滑走路に寝っころがれる…!?」「町でも十分星が見えるのに、公園周辺は街灯もなくてめちゃくちゃキレイらしい!?」など、なんだかロマンチックなイベントです。

でも、ボク自身は天文の専門家でもなんでもありません(汗)。大学の専攻は機械工学。民間企業に勤めていた頃は営業職として設備機器を売る仕事。こういうのは地学専門の先生に頼んでよ…(もちろん大樹高校にはいない 泣)

慌てたボクは、帯広に住んでいる星空観察の案内人にメッセージを送って運営方法を聞いたり、札幌の青少年科学館にあるプラネタリウムにICレコーダー持参で参加し、ナビゲーターのトークをこっそり録音しながら研究したりしました。(←町の教育のためです。許して…汗)



月や惑星の模様を観察するための簡易の望遠鏡や屋外で星を示すために使う中国製の高出力レーザーポインターなども自腹で購入し、準備万端!当日は、小学生と保護者合わせて、30名ほど参加するとのことで、高校生にもボランティアを校内で公募しました。星空におしゃれを感じたのか、イマドキの女子高生8名が手伝いとして参加してくれ、絵本の読み聞かせをしてもらったり、小学生たちと一緒にクイズを考えてもらいました。 

その後、いよいよ夜も更けて…といった時間になったのですが、あいにくの曇り空…(泣)。結局その年は星空を観察することができず、屋内で蓄光シールと画用紙を使った光る星座づくりプログラムに変更。屋外で実施できなかったのは残念でしたが、高校生たちと接する日常とはまた違ったやりがいを感じることができました。

この出来事がきっかけで、「せっかく宇宙の町・大樹町に赴任したのだから、町にちょっとでも貢献できることができないか」といったことを考えるようになりました。札幌に住んでいた時にはさっぱり思わなかったのに、不思議なものです(笑)。

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▲光る!星座づくり(2019年1月27日実施)
クラフトパンチで蓄光シールを型抜きし、黒画用紙に貼り付け。「きのこ座」「ゆきだるま座」などオリジナリティ溢れる星座が誕生しました。

貢献できたかどうかは謎ですが、その後、子ども向けにはものづくりや体験できるものを中心に実施、オトナ向けには、「皿回しで考える組織論」「吹き矢で考える社会と人間の力学」「思わず子どもや同僚に伝えたくなる地球・宇宙の話」といった、一見妙なテーマだけれど、ちょっぴり哲学できそうな地域連携講座※を担当しました(笑)。(町民ライター 岡山ひろみさんによる高校開放講座レポートはこちらから!)

※ボクに限らず、大樹高校教員やそのつながりの中で地域連携講座は毎年開催されています。特に、家庭科を担当されている森志美江教諭のお菓子づくりは毎年すぐに満席に!。ぜひお手伝いいただける方いましたら、社会教育課にご連絡ください。(告知か 汗)

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▲皿回しで考える組織論(2019年1月29日実施)
皿回しを習得しながら組織のリーダーについて考えました。
(中には両刀使いの猛者も!)

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▲ちなみにこちらは、家庭科の森先生によるシフォンケーキづくりの講座。
おいしそう…(2021年2月3日/5日実施)

せんせい、ロケット打ち上げたいです

最後に、大樹高校に在籍していた高校生について紹介したいと思います。

赴任した大樹町は、宇宙の町・大樹町の名の通り、小~中学校の頃から、宇宙やロケットについて触れる機会があります。そのためか、高校生の中でも、「町のペットボトルロケット大会で優勝した」とか、「JAXAのサマースクールに参加してきた」なんて子がサラっといます。モデルロケットの設計ソフトを巧みに扱う子もいて、「え?モデルロケットってどうやって作って打ち上げるの?」とボクが聞いてしまうぐらい。

だからと言って、理系分野に関心がある子たちばかりが育つわけでもなく、よくある普通科の高校です。でも、おとなしかった子が、高校生活の中で自分に自信を持つようになっていったり、照明会社の社長と協同して文化祭のステージプランを作る子がいたりと、生徒の成長がたくさん見えやすい高校かもしれません。

そんな中、赴任して2ヶ月ほどした6月の頃。生徒会担当の教員に1枚の企画書が突然提出されました。読むと、「文化祭でモデルロケットを打ち上げたい」という企画書。提案してきた生徒は、ボクが受け持つ物理を受講している高校3年生の2人組。(そういえば休み時間にロケットの話していたなぁ…。よくわからなかったからスルーしてたけど。っていうか、文化祭までもう1ヶ月切ってるじゃん…。お金もかかるし、安全性の問題もあるし…。…って、モデルロケットって高度100mも超えるの!?火薬も使うの!?法律大丈夫ぅ~!?)

もう30歳を超えてしまった影響か、「こういったのは事前の段取りや根回しが必要なんだよな~」などと、手堅いオトナの発想をしてしまうボクです(汗)。

でも、企画書には「町や高校の魅力を上げたい」と言ったことも書いてあって、企画書のツボを押さえています(笑)。生徒指導部長とも相談の上、実施できる方向を探る形で職員会議に提案。結果は、安全性の詳細・運用についての質問が1件出ただけで、あっさり許可(自分が驚く)。発射ライセンスを持っている町役場の航空宇宙推進室・菅さんに協力いただきながら、文化祭当日の実施を迎えました。(ってかライセンスなんてあるんかい)

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▲打上げは大成功!打ち上がった瞬間、歓声が上がりました。

当日は、「午前中に<小学生限定(保護者同伴)>の先着5名という形でモデルロケットを製作・デザインしてもらい、午後に打ち上げる」という内容で、公募することに。「どれぐらい参加してくれるのかなぁ…?」と心配もしたのですが、あっという間に満席! 急いで製作の上、学校祭のフィナーレとして校庭で打ち上げます。集まった生徒・教員・来場者のみんなで空を見上げて、ロケットが打ち上がった様子を追いかけている。そんな光景は、大樹高校ならではと思いました。

そんな大樹町らしい企画を提案した二人。パソコンの過去データを整理していたら、当時を振り返ったコメントをそれぞれ見つけたので、下記に匿名で紹介します。

●高校受験を考える大樹中学校の生徒たちへ 
大樹高校には学校祭という行事があり、僕はそこでモデルロケットという火薬を使って飛ばすロケットを打ち上げました。モデルロケットを打ち上げるということを今まで学校でやったことがないにもかかわらず、多くの先生に協力してもらい無事開催することができました。生徒がやりたいといったことに対し、できない理由を考えるのではなく、できるようにするにはどうしたらいいかを親身になって考えてくれる先生方がいることは、大樹高校の誇れるところだと思います。(令和3年度 学校説明会に寄せて)
●一年間の授業を終えての卒業論文 
文化祭ではロケットの打ち上げに大きく協力してもらい、多くの生徒や小学生にモデルロケットの打ち上げを楽しんでもらえました。この事は僕に「自分のことだけでなく、人を楽しませるのもいいな」という考えを生むキッカケになりました。何よりも自分たちがやりたいことができ、大人の先生が協力してくれたのは本当にうれしかったです。僕も色々な人と関わって楽しく好きなことをやり、他人の好きなことにも興味を持てる人になっていきたいです。(卒業に寄せて)

「あれがない」から「これもできる」に

大樹町に赴任して過ごした3年間の中で実施した内容や生徒たちを思い出すと、様々な経験をすることができました。赴任当初は、「カフェがない」「駅がない」「他に高校がない」「クラス数が少ない」などと、ないものを列挙して都会と比較していた自分。しかし、過ごすうちに、車で50分走らせれば、人口16万人の帯広市に到着するので、不自由はあまり感じなくなりました。

代わりに、仕事現場の中で、郡部ならではの「これもできる」をたくさん見つけることができました。人事異動の関係で今は大樹町を離れ、東京の学校で働いています。ガッツリ都会に戻ってしまいましたが(汗)、大樹町マインドに触れたボクですから、石狩にいた頃とはずいぶん働き方が違います。(その様子はまたいつか… 笑)。今は、「東京×大樹町×教育」で何をやったら面白いか模索中…。たのしいことがまたできそうです。

そんなボクの働き方を変えた大樹町。そして大樹高校。読者のみなさんも、どうぞキラクに大樹の教育に関わってみませんか?♪

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▲吹き矢で学ぶ初めての力学(2020年2月16日実施)の1コマ。
小学生の力でも、力を加え続ければ車は動き出す…!?





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