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大樹町 移住者インタビュー 宮田悠花さん
北海道の十勝地方南部、自然豊かなまち大樹町。「酪農王国」と呼ばれるほど酪農が盛んで、ここでとれた生乳やチーズなどは格別の美味しさです。そして大樹町を語る上で欠かせないのが「宇宙」。広大な大地に、太平洋を望む発射軌道。そして「十勝晴れ」とも呼ばれる日照率の高さを持つ大樹町は、ロケットの打ち上げに最適な場所。約40年前から宇宙産業の誘致に力を入れていて、町内に滑走路を整備し、数多くの研究機関の実験を迎え入れるなど地道な取り組みを続けていました。2021年には民間にひらかれた商業宇宙港の北海道スペースポート(HOSPO)が本格稼働し、「宇宙のまち」として日本だけではなく世界から注目を集めている場所です。そんな大樹町ではここ近年、じわじわと移住者が増加中。今回は大樹町に移住してきた地域おこし協力隊の宮田さんにお話を伺いました。どうして大樹町を選んだのか、そして移住して見えてきた大樹町とは?
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宮田悠花 プロフィール
1996年、大阪府堺市出身。会社員を経て、2023年6月より大樹町地域おこし協力隊の観光推進員に着任。大樹町観光協会の事務局としてSNSを運用するほか、語学力を活かしインバウンド対応に貢献している。
— 宮田さんは、道外から移住されてきたとお聞きしました。元々はどんなお仕事をされていたんですか?
宮田さん:
高校生の頃からマンガ「宇宙兄弟」が大好きで、この頃から漠然と「宇宙に携わる仕事がしたいな」と思っていたんです。でも文系を専攻していたこともあり技術者として働くのは難しい。そう考えた時に、静岡県にあるロケットの部品工場で働くことを決めました。ちょっとでも、宇宙産業の近くに携わっていたかったんです。
— す、すごい…!憧れを別の形で叶えたんですね。でも、どうして大樹町へ移住することにしたのでしょうか?
宮田さん:
ロケットの部品工場とはいっても、実際に担当していたのは事務職だったんです。最初はそれでも嬉しかったんですが、働いていくうちに「ちょっと宇宙と遠くなってしまったな」と感じていて。その頃から色々調べていくうちに「宇宙のまち・大樹町」のことを知りました。北海道にも宇宙産業に取り組んでいる町があるんだと知って、とてもワクワクしましたね。調べていけばいくほど、「移住してみるのもいいかもしれない」と思うようになりました。というのも、実は私TEAM NACSの大ファンで「宇宙産業にも携われるかもしれないし、TEAM NACSの原点である北海道に住めるかもしれない」っていうがあったんです。ほどなくして、東京で開催される移住フェアに大樹町が参加することも知りました。「ここだ!」と思い立って、静岡から東京まですぐに話を聞きにいきましたね。そこで移住コーディネーターの岡山さんから、地域おこし協力隊を提案されました。そこからはあっという間で、移住を決断するのも早かったと思います。
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— 2つの「好き」が合致した場所が大樹町だったんですね。でも、都会から地方への移住に不安はなかったのですか?
宮田さん:
元々、都会暮らしがそこまで肌馴染みの合う方ではなかったんです。人混みが苦手で、買い物も特に好きではなかったので。だから地方での暮らしはそこまでネックに感じることはありませんでしたね。かえって私には田舎暮らしが合っているのかもしれない、と思うくらいでした。何よりこの時は「宇宙のまち」というイメージが強かったので、憧れだった宇宙に携われるかもしれない!と移住に対してワクワクする気持ちでいっぱいでした。
— なるほど。実際に大樹町へ移住してきて、暮らしぶりはどうですか?
宮田さん:
想像よりも暮らしやすい町でした。生活に必要なものは揃っているし、足を少し伸ばせば帯広にも行けるし。何より北海道に来てすごく感動したのは、都市部にはない大自然。すっかりドライブにハマってしまって、休みの日はいろんな場所へ車を走らせています。それに、大樹町の人たちはすごく温かくて。道外からきた私に対しても優しく接してくれて、「受け入れてもらっているんだな」と実感できる町ですね。お店の人とも話す機会が多いので、顔馴染みのお店が出来やすいと思います。そういった意味で、家でも職場でもない第三の居場所が作りやすい町だといえるかもしれません。あとはなんといっても、ロケットの打ち上げ。打ち上げの際は道内外からたくさんの人が町を訪れるのですが、天候や様々な条件で延期されることが多いんです。なので、交通費や宿泊費をかけても打ち上げを見ることができないことがあって。その点、移住してしまえば打ち上げが延期になったとしてもお金を気にせずに待つことができる。宇宙が大好きな私にとっては本当にありがたいポイントでした。新型コロナ禍以降、ロケット打ち上げの一般開放ができていないのは残念ですが大樹町にいればいつかまたチャンスが巡ってくると思います。まだ大型ロケットの打ち上げは見たことがないので、これからが楽しみですね。
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— 移住者の方にとって、町の人が温かく接してくれるのは心強いですね。宮田さんは大樹町で、今どんなお仕事をされてるんですか?
宮田さん:
当初は宇宙産業に関わる何かができるかなと思っていたんです。でも実は、今携わっている業務は観光に関する仕事で。というのも、移住フェアで地域おこし協力隊の提案を受けた時に、観光担当というお話だったんです。観光業務の経験がなくて、「自分にできるのかな」という不安が大きかったのですが「大樹町に移住できるなら!」と飛び込んでみました。そんな中、協力隊に着任してから半年も経っていないころ、大樹町の観光パンフレットをリニューアルするという大きなプロジェクトを担当したことで向き合い方がガラッと変わりました。ディレクターという責任ある立場を任せていただいたのですが、パンフレットを作る経験もディレクションをする経験もなかったこともあって本当に大変で。考えながら手探りで進めていく中で、「もっとこうしたい」「他の町に引けを取らないくらいいいものを作りたい」という思いがどんどん強くなっていったんです。そうすると、もっともっと大樹町のことを深く知らなければならない。そこで大樹町のディープな魅力や、素敵な部分を知ることができて観光の仕事が本当に楽しいと思えるようになりました。試行錯誤しながらようやく出来上がったパンフレットを手にした時は、達成感でいっぱいでしたね。町の人に「これいいね!」と声をかけてもらったことも嬉しかったです。
— それはすごい経験でしたね…!これから地域おこし協力隊として、どんなことに挑戦していきたいですか?
宮田さん:
観光の仕事をするようになってから、「大樹町のお土産になるようなものがもっとあったらいいのに」と感じることが増えていきました。なので残りの任期で、この町の顔になるようなお土産が作れたらいいなと思っています。大樹町は「宇宙のまち」としても有名ですが、一次産業である農業も盛んな町。大樹町産の材料を使って、お土産にピッタリなお菓子を作れないかと思案中です。それに、大樹町観光協会のSNS運用も任せてもらっていて。大樹町の魅力をもっと多くの人に発信できるよう、「中の人」として頑張っていきたいなと思っています。
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— いいですね!大樹町の素材でできたお菓子、食べてみたい!地域おこし協力隊の任期を終えた後は、どうする予定ですか?
宮田さん:
そのまま大樹町に住み続けて、新しいことにも挑戦したいと思っています。実は協力隊のお仕事をしながら、「国内旅行業務取扱管理者」の資格を取得したんです。協力隊の経費で受験料が出せたので本当にありがたかったですね。この資格があると国内の旅行企画や手配ができるようになるんです。なので、自分で見つけた大樹町の素晴らしい観光スポットや魅力を詰め込んだツアーを作って、観光客を誘致できるようになったらいいなと思います。「宇宙のまち」を、観光の目線から後押しする。地域おこし協力隊になっていなければ、こんな考えを持つこともなかったなと思います。そういった意味で、観光の仕事に携われたのは予想外のラッキーでした。
— 「宇宙のまちを観光で後押し」、素晴らしいですね。これから大樹町をどんな町にしていきたいですか?
宮田さん:
もちろん、「宇宙のまち」として有名になってほしいと思います。でも移住して地域おこし協力隊として活動している今は、同じくらい宇宙以外の資源にも目を向けてほしいと感じています。大樹町には誇れる観光スポットや自然、食べ物がたくさんあるんです。そのためにも私ができることは、協力隊で経験することができた観光の側面から大樹町をPRしていくことなんじゃないかなと思っています。「宇宙だけじゃないまち」、それも大樹町です。
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