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大樹町 移住者インタビュー 岡山ひろみ

北海道の十勝地方南部、自然豊かなまち大樹町。「酪農王国」と呼ばれるほど酪農が盛んで、ここでとれた生乳やチーズなどは格別の美味しさです。そして大樹町を語る上で欠かせないのが「宇宙」。広大な大地に、太平洋を望む発射軌道。そして「十勝晴れ」とも呼ばれる日照率の高さを持つ大樹町は、ロケットの打ち上げに最適な場所。約40年前から宇宙産業の誘致に力を入れていて、町内に滑走路を整備し、数多くの研究機関の実験を迎え入れるなど地道な取り組みを続けていました。2021年には民間にひらかれた宇宙港の北海道スペースポート(HOSPO)が本格稼働し、「宇宙のまち」として日本だけではなく世界から注目を集めている場所です。そんな大樹町ではここ近年、じわじわと移住者が増加中。今回は大樹町に移住してきた移住コーディネーター・岡山さんにお話をお伺いしました。様々なまちを見てきた岡山さんから見えた大樹町、そして移住コーディネーターのお仕事とはどんなものなのでしょうか?

岡山ひろみ プロフィール
1987年、札幌市生まれ。大学進学を機に上京して11年間東京で過ごすも都会の生活に限界を迎え札幌にUターン。しかし札幌も都会ということに気づき、2020年5月に大樹町に移住。現在は大樹町の移住コーディネーターを務める。

— 岡山さんは、札幌ご出身なんですね。元々はどんなお仕事をされていたんですか?

岡山さん:
大学進学を機に札幌を離れて、卒業後そのまま東京で働きはじめたんです。割と大きな会社に勤めていて、とにかく仕事に命をかけていましたね。その結果、身体も心も疲弊していったんです。「これからはもっと自分を大切にして生きていきたいな」と思って、札幌に戻りました。ですが…ここでもまたボロボロになるまで働いていたんですよね。これじゃダメだな、と薄々感じていた時に、大樹町の友人の新居にお邪魔して。そのお家の窓から見える日高山脈に一目惚れしたんです。「こんな景色を見ながら生活したい!」と思って、札幌を離れて移住することを決意しました。もっと細かな経緯やなぜ大樹町を選んだかについては自分でも記事にしてまとめているので、ぜひお読みいただけたらと思います。

元々大樹町が「宇宙のまち」であることは知っていたのですが、詳しいことはそこまでわからなかったんです。生活をはじめて少しずつ人や行政、企業との関係性ができていくなかで「非常に可能性がある町だ」と気付きました。一方で、行政や宇宙産業従事者が思い描く未来図と一般町民の感覚にギャップがあることにも気付いたんです。「宇宙のまちであることは知ってるけど、自分たちにはそこまで関係がない」、みたいな。それってすごくもったいないなと思って、この橋渡しになる役割が必要だなと感じました。「宇宙のまちになるためには、宇宙産業ではない人が動く必要がある」と思ったんです。

— 「宇宙のまち」を叶えるために「宇宙じゃない人」が動く。たしかにギャップを埋めるには最適かもしれませんね。

岡山さん:
自分は宇宙の専門家ではないし、ロケットも作れない。だけど宇宙産業に可能性を感じているのも事実。そうなった時、自分にどんな動き方ができるだろうと考えた結果行き着いたのが「移住コーディネーター」でした。というのも、自分が移住してきて感じたのは「まだ町外からきた人たちを受け入れる準備が整っていない」ということ。これから「宇宙のまち」に向けてどんどん動きが本格化していくと、必然的に宇宙関連企業や宇宙産業に関わる人がこの町に増えていくと思うんです。今のまま移住者が増えていくと、町の人にとっても移住者にとっても戸惑うことが多くなるんじゃないかなと思っていて。それなら、すでに移住を経験している私が率先して環境を整えていけばいいのでは?と考えたんです。移住という観点からのまちづくりなら、自分にできそうだなと。それが自分なりの「宇宙のまち」への後押しになるんじゃないかと思ったんですよね。次に考えたのが、どうやって移住へのアプローチをしていこうかという点で。そこで色々と調べていくうちに「移住コーディネーター」という仕事があることを知ったんです。

— なるほど。「移住コーディネーター」ってあまり耳にしないお仕事かなと思うんですが…

岡山さん:
「移住コーディネーター」は、実は総務省が定めている地方創生制度のひとつなんです。人が少なくなっている地域に、移住の流れを生み出す仕事ですね。業務内容はその自治体によって様々なんですが、そもそも大樹町には「移住コーディネーター」の枠組みがなくって。そこで自分で企画書を書いて、「こんな仕事があります!やらせてください!」と役場に持っていったんです。役場の方々もそんな仕事があるなら、やってみてもいいよと快諾してもらって。そこから移住コーディネーターとして動き出すことになったんです。

— すごい行動力ですね…!実際に移住コーディネーターとして、どんなお仕事をしているんですか?

岡山さん:
前述した通り自治体によって内容は変わるのですが、大樹町での主な役割は移住の促進です。全国各地で北海道に移住を考えている人向けの「移住フェア」が開催されているんですが、大樹町は年に4回ほどフェアに参加しています。そこで来てくれた大樹町に興味を持ってくれている人たちに対して、移住に向けた相談に乗っていますね。もちろん、web会議ツールを利用したオンラインでの移住相談もお受けしています。どんな形で移住したいのか、その人の家族構成や環境によって求めるものは当然バラバラです。そこを細かくヒアリングしていって、時には大樹町の人とつないだり役場に紹介することもあります。会社の人事担当者に近いイメージかもしれません。仕事や家、子どもの学校など移住者に合ったオーダーメイドのサポートをしている、という感じですね。

— たしかに移住者の方からすると、移住コーディネーターがいるのは安心できますね。実際に何件ほどの移住に携わったんですか?

岡山さん:
移住コーディネーターとして動きはじめた1年目は2組で、2年目以降は徐々に件数が増えていって、今は合計16組の移住に関わりました。1年目の2組も協力隊として大樹町に来てくれましたね。その2人が本当に楽しそうに、前向きに活動してくれているおかげで協力隊が増えていきました。2024年度は地域おこし協力隊の皆さんに協力してもらって、移住希望者向けのパンフレットを作成したりして。過去には移住してきてくれた方々をみんな集めて、クリスマスパーティを開いたりしたこともあります。移住者の間で新しい関わりやコミュニティを築けているのも嬉しいなと思います。

— それは楽しそう!岡山さんが関わってきた人の他にも、大樹町への移住者は増えているんですか?

岡山さん:
実際に移住コーディネーターとして動き始めてから、この数年で移住の相談は格段に増えています。少なからずお仕事のいい影響が出てきているのかなと思いたいですね。それに、大樹町には移住を考えている人向けのお試し住宅制度(移住希望者向け町有住宅貸付事業、大樹町ワーキングステイ促進事業)があって。町有住宅貸付は約6ヶ月間、ワーキングステイは1週間から90日間利用することができます。その間に職業体験をしたり、移住に向けて動いてみたり、はたまた大樹町でリモートワークをしたりと活用の仕方は人それぞれです。実は2024年の秋ごろから、この制度についての問い合わせがかなり増えてきていて、しばらく予約で埋まっていましました。移住促進の動きが影響しているのかはわからないのですが、確実に「宇宙のまち・大樹町」の認知は広がっていると思います。

— なるほど…!岡山さんから見て、これから大樹町をどんな町にしていきたいですか?

岡山さん:
先程もお話ししたのですが、大樹町ってすごく可能性がある町なんです。宇宙産業という新しい産業に力を入れている上に、その産業が世界レベルになる可能性がある。そしてその可能性を信じて、「宇宙のまち」を信じて動いている人がたくさんいて。このまま動き続けていけば大樹町は大きく変わっていくだろうし、その変化を目の前で見つめていたいと思っています。そういう思いを持っている人は、町内にも町外にもたくさんいると思うんですね。「移住コーディネーター」としてできることは、その土壌であるまちづくりを別の視点から考えること。「宇宙のまち」を実現するのは、私たちひとりひとり次第だと思っています。

Text:奥村菜依加
Photo:﨑一馬

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